2019年9月6日金曜日

嬉しいできごと

一丁前に、独りで飲みに行くバーがある。
バーといえば二次会に来るひとが多いので、オープン時は空いている。

わたしはその静かな時間帯にお邪魔することが多いのだけど、
いつも、入ってすぐのカウンター席に男性がひとり座っている。

その男性が、みずからお酒を注文するところを見たことがない。
飲み終わるころ、マスターが次のお酒をつくって出すのだ。
きまった杯数を飲み終えるとさっと帰る。
スマートでかっこいいなと、何となく目の端で認識していた。

話は変わって。
わたしはその店を出た後、本日の目的である別のバーに行った。
ここは、もとはさっきのお店の二号店だったが、最近独立して
正式にオーナーとして営業を始めたところだ。
余談だが、わたしはこっちのマスターのつくるジンリッキーがいちばん好み。

お酒を飲んでいると、男性が入って来て隣に座った。
目の端に入ってくるお酒を飲むしぐさ、声。あ、あのひとだ。
そう思っていたら、「さっきいましたよね」と話しかけてくださった。

「いつもね、姿勢がいいなと思ってたんですよ。
あなた見てるとね、フェルメールの、なんだったかな、
耳飾りの少女、あの絵を思い出すの。
(前の店の)マスターにもね、いつもそう言ってたの。」

恥ずかしいやら嬉しいやら。
しかしやっぱり、みんなそうなんだな。
別に話しかけないし、詳しく訊かないけど。あ、今日もいる。と。
利害のない、でも見知ったひとと、空間だけともにするかんじ。

そうして、「うん……、やっぱり、来るよね。ここに」と。
それは、新オーナーへの応援のきもち。
わたしも同じ思いで来ていたから、すぐに意味がわかった。

マスターは、「あっちの店では(お客さん同士)しゃべらないのに、
こっちの店だとしゃべるんですよね」と、不思議な顔をしつつも嬉しそうだった。

いい夜だったなあ。
というお酒の思い出のはなし。

ちなみにいつも飲んでいる(自動的に出てくる)お酒はなんですか?と聞くと
「ホワイト・レディ。僕はもうこればっかり」と教えてくれた。