一丁前に、独りで飲みに行くバーがある。
バーといえば二次会に来るひとが多いので、オープン時は空いている。
わたしはその静かな時間帯にお邪魔することが多いのだけど、
いつも、入ってすぐのカウンター席に男性がひとり座っている。
その男性が、みずからお酒を注文するところを見たことがない。
飲み終わるころ、マスターが次のお酒をつくって出すのだ。
きまった杯数を飲み終えるとさっと帰る。
スマートでかっこいいなと、何となく目の端で認識していた。
話は変わって。
わたしはその店を出た後、本日の目的である別のバーに行った。
ここは、もとはさっきのお店の二号店だったが、最近独立して
正式にオーナーとして営業を始めたところだ。
余談だが、わたしはこっちのマスターのつくるジンリッキーがいちばん好み。
お酒を飲んでいると、男性が入って来て隣に座った。
目の端に入ってくるお酒を飲むしぐさ、声。あ、あのひとだ。
そう思っていたら、「さっきいましたよね」と話しかけてくださった。
「いつもね、姿勢がいいなと思ってたんですよ。
あなた見てるとね、フェルメールの、なんだったかな、
耳飾りの少女、あの絵を思い出すの。
(前の店の)マスターにもね、いつもそう言ってたの。」
恥ずかしいやら嬉しいやら。
しかしやっぱり、みんなそうなんだな。
別に話しかけないし、詳しく訊かないけど。あ、今日もいる。と。
利害のない、でも見知ったひとと、空間だけともにするかんじ。
そうして、「うん……、やっぱり、来るよね。ここに」と。
それは、新オーナーへの応援のきもち。
わたしも同じ思いで来ていたから、すぐに意味がわかった。
マスターは、「あっちの店では(お客さん同士)しゃべらないのに、
こっちの店だとしゃべるんですよね」と、不思議な顔をしつつも嬉しそうだった。
いい夜だったなあ。
というお酒の思い出のはなし。
ちなみにいつも飲んでいる(自動的に出てくる)お酒はなんですか?と聞くと
「ホワイト・レディ。僕はもうこればっかり」と教えてくれた。